20/7/13
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弁護士の陣内です。
今回は、事業を承継させた後の話をさせていただきます。
 スムーズに事業を承継させる場合は、前任の経営者(代表取締役や代表社員)が譲渡後も引き続き会社に残ることがあります。一般的な株式譲渡契約を例にとりますと、クロージングの日に株式は譲渡人から譲受人に移ります。しかし、株式会社の場合、代表取締役が当然に変わるかというと変わりません。別途、役員の退任について定める必要があります。広い意味での所有と経営の分離です。
 さて、多くの中小企業は、会社=代表者という場合が多いです。会社の業績が代表者に依存しているということです。以前にもお話ししましたが、事業の承継はある程度長いスパンで考える必要があります。譲渡人と譲受人が基本合意書を場合によっては数回交わして、本契約を締結し、それまでの合意内容を失効させる手順が一般的です。しかし、本当に大変なのは譲渡後(多くの場合はクロージング日後になります。)です。承継後の事業をうまくスタートさせることができるかということです。事業の譲渡人である旧代表者の個性や能力に依存する点が大きく、経営者の変更は対内的対外的に大きな影響を及ぼします。従業員や取引先、所轄の行政庁までも旧代表者と比較し、軋轢が生じやすく、従業員に至っては退職者も出て場合によっては事業の存続にも関わります。長く働く従業員の中には、譲渡人が会社を去るのであれば自身も辞めるという人がいる例もあるようです。会社の承継の問題はさておき、譲渡人の功績と人望によるものでしょう。

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 しかし、それではスムーズな事業承継ができません。事業を譲り受ける側としては、譲渡人である旧代表者に会社に残ることを求める例が見られます。しかし、譲渡人は経営から離れたいから事業を譲渡したのであって、いろいろな注文(中には無理難題!)を譲受人に課すことになるわけです。代表的なものは業務上の責任の免責です。その他にも、自由出勤や現在と同等はそれ以上の報酬の保証(株式の価格を税務上の必要性から低く設定した場合等に残留する譲渡人の報酬を高く設定することはあります。)、正当な理由があっても報酬の減額ができないことなど。譲渡人がどのような立場で会社に残留するかにもよりますが、別途委任契約を締結して決めることになるでしょう。顧問や業務委託契約、役員(珍しい例では監査役)・・
 しかし、業務上の責任を一切負わないことは難しいです。特に残留する譲渡人が取締役として残る場合はなおさらです。地位に基づく責任は回避することができない部分もあります。今現在、検討しているのは、役員として残ると役員としての責任(主に会社法423条1項に基づく責任)を負うことになりますが、事後的に責任の免除を義務付けることができないかというスキームです。会社法424条には総株主の同意による423条1項の責任の免除という規定があります。譲受会社にこの同意を義務付けるというスキームですが、同意は決議と類似しますので、議決権拘束契約を活用するものです。まだまだ一致した見解がない分野ですので、追って報告をいたします。

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