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私はオフィスビルを所有していますが、賃借人であるテナントから、賃料を減額したいこと、減額してもらえるまでは賃料を支払う意向がないことと書かれた通知が来ました。
私としては、賃料額は相当だと思っていますし、いきなり賃料を支払わないと言われても納得できません。
私としては、これからどのように対応していくのがよろしいでしょうか?

大家としてテナントと賃料額について協議すべきですが、訴訟を見越しての対応を検討する必要もあります。

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第1 賃料減額請求とは?

 賃貸人と賃借人とは、賃貸借契約を取り交わし、賃貸する内容や賃料、賃貸期間など、双方で合意しています。

 賃貸人にとって、賃料とは、賃借人から収受する最重要のものですので、その金額について契約で既に定めた以上、賃借人から賃料を減額するとの通知を受けたとしても、すんなりと受け入れがたいものです。

 

 さりとて、契約を取り交わしてから長い年月が経過して賃料が相当と言えなくなった場合や、多方面に大きな影響を与えた新型コロナウイルス(COVID-19)での活動自粛やウクライナとロシア間の情勢不安や日銀による利上げ等の諸処の問題や事情により、従前どおりの家賃を維持することに問題が生じることもあるかもしれません。

 

 借地借家法32条1項本文は、賃料額が、「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃額の増減を請求することができる。」と定めています。

 

 今回、相談者様は、賃借人であるテナントが同法に則って、賃料減額請求権を行使された状態と言えます。

 

第2 賃料減額請求をされた場合の貸主の対応

 前述の通り、いったん取り決めた賃料について、妥当ではなくなったと考える当事者は、相手方当事者に対し、賃料の増減額請求ができることが借地借家法で定められています。

 

 借地借家法では、続いて以下の通り取り決めています。

 

「建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない(法323項)。」

 

 そうすると、貸主としては、借主から減額の請求をされたとしても、請求内容が妥当ではないと考えるならば、まずは借主と賃料額について協議すべきと言えます。

また協議の期間中も、貸主が相当と考える賃料をテナントに請求できることができます。

 但し、賃料の協議が整わず、テナントより訴訟が提起された場合、仮に、それまで借主から、相当と考える家賃相当額の負担があったとしても、貸主は、確定判決で定められた賃料との差額に利息を付して清算することを要します。

 

 以上の通り、相談者様としては、賃料減額請求を受けたとしても、現状の賃料を支払うように請求できるものの、裁判により減額する内容の判決が確定してしまった場合には、利息を付して差額分を負担しなければならない点を念頭において対応すべきと言えます。

 

第3 賃料増減額請求の判断基準

 裁判で賃料額が争われた場合、裁判所は、どのような基準によって相当な賃料額を算定するのでしょうか?

 

 賃料の適正な金額が争われる場合、貸主・借主とも査定や私的鑑定の結果を客観的な資料として提出することにより、主張する金額が妥当であることを主張することは、良くあります。裁判で争いになる場合には、公的鑑定が実施されることもあるでしょう。

 

 ところで、不動産の鑑定評価により求められる賃料には「新規賃料」と「継続賃料」の2つの概念があるとされます。

 

 新規賃料とは、新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を表示する適正な賃料のことです。言い換えると、需要供給との関係により市場で成立する賃料、すなわち正常賃料が基準となります。

 新規賃料の鑑定手続では、「積算法」、「賃貸事例比較法」、「収益分析法」により算出された賃料額を織り交ぜながら検討していくことになります。

 

 次に、継続賃料とは、既に賃貸借契約にある契約当事者間において、現賃料を改定する場合の賃料のことです。ベースとなるのは、既契約における現行の賃料ですので、特定の賃貸借契約の中の経済価値を適正に表示する賃料となります。

 

 借地借家法で定める賃料増減額請求は、継続賃料が新規賃料と乖離が生じたため、一方の当事者がその乖離を埋めるべく行使する権利行使とも言えそうです。

そうしたところ、継続賃料は、賃貸借人間において、既に一定の継続的関係があることが前提になりますので、単に正常賃料との差があることのみならず、契約当事者間における個別事情にまで踏み込んで検討していく必要があります。

 

 具体的に見てみましょう。

 継続賃料の鑑定評価額は、「差額配分法」、「利回り法」、「スライド法」により算出された各賃料や比準賃料を関連付けて決定しますが、それだけに留まらず、直近で賃料額を合意した時点から価格時点までの期間を中心として、土地価格や公租公課の推移、契約の内容及びそれに関する経緯、契約上の経過期間や直近合意の期間から価格時点までの経過期間、賃料改定の経緯等、諸般の事情を総合考慮する必要があります。

 

 以上からも分かります通り、継続賃料では、市場評価以外に、契約当事者間の従前の事情等も鑑定材料となりますので、鑑定額を算出する手間が増えることが分かります。

 

 いずれにせよ、賃貸借関係を新たに取り交わす場合や従前の契約関係を見直す場合、慎重な対応を要すること、対応を誤ると金銭負担等を別に要するおそれがあることをしっかりと理解することが大切です。

 虎ノ門法律経済事務所神戸支店では、不動産関係についても多く扱っておりますので、まずは悩まれた場合には、ご相談いただければと思います。

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