20/2/17

 弁護士の陣内です。

 法律事務所に来所される方には2種類の方がいます。紛争が生じてからくる方と紛争が生じる前にくる方。今回は,紛争が生じる前の話です。予防法務と呼ばれる分野で,関心のある方も多いです。
 経営承継円滑化法という法律があります。これは,事業承継に伴う障害を少なくするための法律です。同法の柱は3つ,税務(相続税等の猶予),金融(保険や融資の特例),民法の遺留分の特例があります。今回は,遺留分の特例について簡単に紹介いたします。
 一般民事をやっていますと,遺留分の相談や依頼は非常に多いです。遺留分は,一定の法定相続人に最低限の相続の権利を保障する制度です。晩年,被相続人の近くにいた人に財産を贈与して,後から相続人が遺留分を侵害していると主張することが多いです。相続人の請求は遺留分侵害額請求といいます(少し前まで,遺留分減殺請求と呼ばれていました。)
株式会社の事業承継においても,事業を譲渡した経営者の相続人が,事業の後継者に遺留分侵害を主張することはあります。なかなか,後継者に事業用資産をそっくり移転することは難しいようですね。株式会社の経営者が,後継者(法定相続人でない他人。例えば長年がんばってきた専務とお考え下さい。)に株式を譲渡した場合を考えてみましょう。経営者が後継者に株式を贈与し,その後,経営者が亡くなって相続が開始した場合,経営者の相続人から遺留分侵害額請求を受けることがあります。遺留分は,一定の相続人に保障された権利ですので,請求を受けること自体は仕方がないところです。
 問題は,後継者が請求される金額です(遺留分侵害額)。後継者が,がんばって会社を発展させると当然,株価も上昇します。すると遺留分の算定の基礎財産の価額も上昇します。これは,後継者が会社を発展させればさせるほど,遺留分侵害額請求で請求される金額が大きくなるということです。例えば,後継者が株式の贈与を受けた時点では,株価は総額で3000万円だったのに,現在は1億円になっていた場合は,1億円を基準に遺留分を算定することになります。後継者が,会社を発展させれば請求される遺留分侵害額も増えます。後継者からすれば,結構なジレンマです。
 そこで,同法の遺留分の特例を活用することが考えられます。2つのパターンがありまして,1つは後継者が譲り受けた株式を除外する方法(除外合意),もう1つは遺留分算定の基準時を合意する方法(固定合意)です(※)。除外合意の場合は,後継者が譲り受けた株式は,そもそも遺留分算定の基礎から除外されます。固定合意は,遺留分算定の基準を株価上昇前に固定することにより,後継者の貢献で株価が上がっても,その分が遺留分に反映されないことになります。いずれの場合も,後継者と推定相続人全員の合意,経済産業大臣の確認,家裁の許可が必要です。手続きは面倒ですが,経営者が存命中に行うことができます。どういうことかと言うと,経営者自らが,推定相続人に,事業を存続させるために必要であると理解を求めることができるということです。事業承継先の後に遺留分で紛争が生じる可能性があれば,検討する必要があると思います。
 ※いずれの合意の場合も条件があります。詳細はお問い合わせください。


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