20/5/13
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弁護士の陣内です。

 事業承継も結局のところ、何らかの契約(株式の譲渡契約や事業譲渡等)ですが、時間をかけて段階的に温めていく場合がほとんどです。時間がかかるので、途中で予期せぬ事態や事情の変更があることもあります。新型コロナの関係で契約に向けて進めていた事業承継がストップする例が多いです。ほとんどは承継先が従前の条件の再検討を申入れる場合です。また、昨今の難局は、現在の経営者でないと対応することができず、承継の時期を延期するというものです。また、事業の承継はするものの、事態が落ち着くまで現経営者が期間を定めて業務委託契約や経営委託契約を結んで、経営を続けるように求められる例もあるようです。
 そもそも事業承継におけるМ&Aは、一般的に承継先を親族内や会社の従業員等以外の第三者に求める場合をいいます。通常、長期的な視座で、交渉し、契約に至り、事業を第三者に引き継がせることとなります。これは当然のことで、事業の内容を細かく分析して事業価値を判断し、承継者にスムーズに引き継がせる必要があるからです。通常、承継先はある程度、事業承継を考えている事業者の事業内容に詳しい場合が多いのですが、会社内部の事情、取引先、商慣習(地域性や特色)、従業員の待遇等、知っておく必要があることが多いです。また、事業の価値等の評価、算定も一朝一夕ではいきません。
 そこで事業の承継まで時間を要することから、途中で基本合意書を取り交わされることがほとんどです。これは、ある程度事業の承継について話が進んだところで結ぶもので、内容は独占交渉権や譲渡価額の算定方法、帳簿の閲覧、事業所への立ち入り、従業員へのヒアリング、併せて秘密保持契約を結んでおくことなどです。どこまで法的拘束力があるかが問題となりますが、これは基本合意書の内容の解釈問題です。新たに基本合意書を交わす場合、どの範囲で法的拘束力が認められるのかという視点で、検討することが肝要です。
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 さて、基本合意書を交わした段階で、新型コロナの問題が発生した場合、どうすればよいでしょうか。基本合意書の中に、事情変更(通常は不可抗力の原因・新型コロナを含む伝染病の流行は不可抗力といえることを前提に話をします。)による再交渉や協議をする旨の条項があれば、その条項に従って、誠実に協議をすることになります。ない場合であっても、緊急事態宣言が発出され、国民が等しく、影響を受ける状況では、再交渉に応じる場合がほとんどでしょう。
一応、民法の学説、判例上も新型コロナの流行のような場合を念頭に置いた概念があります。今回の債権法改正で条文化するという話もあったそうですが、条文化は見送られました。事情変更の原則というもので、概ね、①契約後に基礎となる事情に著しい変化が生じたこと②①が契約時に予見できなかったこと、③契約の拘束力を維持することが信義則に反すること、という要件を充足した場合に、解除や契約内容の改定が認められると考えられております。もっともこれは一般法理と呼ばれるもので、抑制的に適用の可否が決められます。実際に適用されて解除ができると安易に考えるべきではないでしょう。しかし、契約の再交渉等についての有益な視点だと思います。
今回の新型コロナの騒動は、かつてない難局であり、経済活動に様々な支障を生じさせています。経営者や事業者、特に従業員の生活を守らなければならない方々の悩みは深刻なものと思料します。私が申し上げることも甚だ僭越ですが、ご自身と同じ立場の方も同じことで悩んでいること、信頼することができる人に話すことを忘れないでいただきたいと思います。
現在の難局を凌いで新型コロナが収束した世界を一緒に眺めましょう。
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